七夕

「ほら、笹持って帰ったぞ。」
バーディは家の戸を開けるなりそう叫んだ。
その声を聞いてか、ドタバタと足音が近づいてきた。
「ささー!」「しゃしゃー!」
駆けてくる二人がほぼ同時にそう声を上げる。
姉のフレアと、弟のウィザーだ。
「お帰りなさい。」
そのあとから歩いてきたシャウトがそう声をかけた。
その手には短冊がある。
「フレア、飾り持ってこないとだめよ。」
今にもバーディに飛びつきそうなフレアにシャウトはそう声を投げる。
どうやら、笹を運ぶのはバーディに任せるつもりなのだろう。
このことはバーディも口に出さない。
か弱い乙女に荷物を持たせるつもりとでもいいだしかねないからだ。
そう言ってすねる彼女を見るのも楽しかったのだが、さすがに二児の母でもある今、子供に見せる顔ではないだろう。
「はーい。お父さん、部屋で待っているからねー。」
そう言って、フレアはとたとたと駆け出す。
ウィザーのほうはそんな姉を見つつも、追いかけるそぶりを見せない。
ウィザーの年齢をかんがみたら、それは仕方のないことなのかもしれない。
「ほら、ウィー、お父さんの邪魔になるからこっちに来なさい。」
シャウトがウィザーに声をかける。
確かに通路にウィザーが立っていては、笹を運ぶバーディにとっては何かと気を使うことだった。
てとてとと、おぼつかない足取りでウィザーはシャウトのほうへ歩き出す。
普段は抱え連れてあげることもできるが、両手がふさがっている今日は仕方がない。
バーディはそんなウィザーの後ろ姿を見守りながら歩いた。

部屋で待っている、その言葉通りフレアはリビングにいた。
テーブルの上に箱が置かれ、そこから折り紙で作られた飾りが見えている。
バーディはリビングの片隅に持っていた笹を立てかけることにした。
しかし、今立てるとまだ背の低い子ども二人には届かないため、その近くで横に倒しておいてあるだけだ。
フレアは早速箱から飾りを取り出し、一つ一つ笹にくくりつけていく。
ひもはおそらく、シャウトがつけたのだろう。
「七夕様だから作るってウィザーを巻き込んで部屋で作っていたのよ。」
飾りをつける手を見つめるバーディにシャウトがそう教えた。
シャウトの言う部屋とは将来子供部屋にする予定の、現在はおもちゃ置場のような場所だ。
フレアはどの部屋も部屋と呼んでいるため、時々どこにいるかわからなくなることがあるのは余談だ。
シャウトの話から、バーディはフレアとウィザーが飾りを作る様子を想像する。
まだ二つのウィザーは凝った飾りが作れない。
きっとぐちゃぐちゃの飾りが出来上がり、その都度フレアが違うとか何とか言ったのだろう。
そういうフレアは、もしかしたら女の子らしく凝ったものを作るのかもしれない。
あくまでも五歳児レベルで凝ったものなので、たかが知れているのは言うまでもないが。
「お前も作ったのか?」
「あたし?あたしはこれだけよ。」
ふと気になったバーディはシャウトにそう尋ねる。
これ、シャウトはそう言ってバーディに見せたのは先ほどから持っていた短冊だ。
几帳面なほど長方形に切られ、穴からひもがくくりつけられている。
「バーディの分もあるからね。」
そう楽しそうにシャウトは言うと、フレアの飾り付けを手伝い始めた。
短冊は、飾り付けが終わった時に皆で書くのだろう。
シャウトの手から揺れる、四本の輪を描いたひもが揺れるのをバーディは見ながら思った。
そしてバーディは、
「ウィザー、こいよ。」
すっかり一人取り残された息子にそう声をかける。
飾りを作ることも、飾り付けも十分に理解するにはまだ幼い息子は珍しく座らせてもらった父親の膝の上で姉と母の行動を見つめていた。

さすがにシャウトが手伝ったこともあってか、飾り付け自体はすぐに終わった。
楽しそうにする二人を見ていると、バーディは夕食がまだだと口を出せずにいた。
「じゃ、みんなお願い事書きましょ。」
本当に楽しそうにシャウトは言う。
バーディに短冊を二枚渡したのは、一枚がウィザーの分だからだろう。
フレアは渡されたそばから短冊に、つたない平仮名で何か書きだした。
その時、バーディの肩を誰かの手がたたいた。
フレアは短冊をかいている。ウィザーはバーディの膝の上。
消去法でいけばシャウトの手だ。
顔を上げると、バーディの前で、シャウトは片手で拝む形をとり、もう片手でカウンターの上を指さす。
どうやら、夕食がまだなのはバーディだけではないらしい。
そしてシャウトがフレアの飾り付けを手伝ったのは、なるべく早く終わらせて夕食にしたかったからなのかもしれない。
「ウィザー、お前は何か願い事はあるか?」
だからバーディはまだ文字という文字の書けない息子にそう聞いた。
フレアの手伝いをシャウトがするのなら、ウィザーを引き受けるのは自分だろう。
「ねあいおと?」
「ああ。こうなってほしいとかこうしたいとかこれがほしいとかそういうことだ。」
バーディにそう言われたウィザーは少し考えるそぶりをした。
考える、ということをするのならの話ではあるが。
「おかーしゃん、おとーしゃん、ふー、ウィー、あそぶ!」
にっこり笑って、ウィザーがそう言う。
その言葉にバーディは言葉を失った。
一瞬のち、我に返ったバーディは“みんなで遊びに行けますように”と自分なりに言葉を換えてウィザーの願い事を短冊に書いた。
この願い事を果たすのは、バーディ自身が努力しなければならないところが多いだろう。
フレアは何を願ったのか、そんな疑問が頭をもたげフレアを見てみるが、フレアはすでに笹にくくりつけるところだった。
「お父さん見ちゃだめだよ!見たらかなわないもん!」
バーディの視線に気づいたフレアが言う。
それは流れ星と思いつつも、どちらも願い事には変わりない。
それに、笹にくくりつけてある以上、いつでも見ようと思えば見れるものだ。
なにも今急ぐ必要はない。
「ふふふ。バーディは何か書いたの?」
そのやり取りを見ていたシャウトが笑いながら言った。
「まだだ。シャウトは書いたのか?」
「うん。バーディがかいたら見せあいっこしよっか。」
バーディの問いに、シャウトは肯定を返した。

飾り付けも、短冊の取り付けも終わった後、バーディは笹を立てた。
シャウトは夕食を食卓の上に並べ出す。
時々シャウトの姿が見えなかったのは、キッチンで麺を茹でていたらしい。
麺で天の川をイメージした、七夕を描いた夕食だった。
その夕食をフレアは奇麗だとかすごいだとか言ってとても喜んでいた。
おそらく、食べ終わったらすぐに空を見たいとか言いだすだろう。
天の川を探し、織姫と彦星を探そうとするだろう。
バーディはもう一度、笹につけられた短冊を見た。
バーディの短冊は一番高いところに、シャウトのと並べてつけられている。
短冊同士の仲がよいかのようにくっつくくらいの距離にある。
書いてあることがほとんど同じだったのははたして偶然なのか当たり前なのか。

――家族みんなが幸せでありますように。

そう思いながら、バーディは食事を始めた……。
七夕フリー小説ー!
…っと思ったんだけど、ネタとして子ども設定にならざるを得なかったので、結局配布用としてUPはしませんでした。
持ち帰りたいとか稀有な方がいましたら一報願います。
まぁ、かいてありますが、フレア5歳ウィザー2歳になる年です。
誕生日設定をやっていないので、もしかしたらフレアはまだ4歳かもしれないし、ウィザーは…2歳であってほしいなぁ…(笑
七夕までに間に合ってよかった…うん。
(7日に日付変わる15分前に書きあげた…;;)

戻りませう