Smile

ここ連日、結婚の準備に向けて何かとドタバタしていた。
だからこそ、今日この日の“デート”は違った意味で楽しみだったのだ。
一時期シャウトは結婚を深く意識して先が見えなくなったことがあった。
このまま先を進んでいいのか、一人で迷宮に閉じ込められた。
おめでとうという祝福の言葉が、嬉しくもあり、束縛する鎖でもあったのだ。
そんなシャウトに“気分転換”としてデートしようとバーディが誘った。
もちろん表現はこんな直接的ではないが、とにかく付き合いだしたときのようにほかのことは考えず、二人だけで楽しく時間を過ごそうというわけだ。
そうして二人で予定を詰めて、この日に落ち着いたのだった。
始めのうちは、バーディの中にマイティの面影が強くあったため、シャウトとしてはあまり付き合っているような感覚はなかった。
そんな理由で、その当時はそこまで服装などにこだわったことはない。
だが、記憶の中のマイティと折り合いがついて、シャウトへの愛が深くなった時から、シャウトは自分の恰好を気にするようになっていた。
付き合っているんだと思うと、周りにどう思われているのかが怖くなったのだ。
ただでさえ容姿では目立つバーディだ。
自分なんかは不似合なんじゃないかと思ったことは一度や二度ではない。
どんな服がカワイイと言われているのか雑誌などで調べて、自分の買える範囲で買ってきたことも同じだけある。
しかし、どんなに服を着て見ても、店頭で来た時はかわいく見えたのに、自宅できると急に人形に服を着せただけの感じになるのだった。
シロボンやガングでなくても、その恰好を見たら笑うだろう。
そう自分で思えてしまうほどだった。
その失敗を活かせるかは分からないが、今日はハイヒールを履こうとシャウトは決めていた。
背が伸びれば、似合うようになるかもしれない。そんな淡い期待が出てくる。
普段は移動の多さからハイヒールなんてありえないと思っていたが、おしゃれには大事なのかもしれない。
シャウトはそう自分に言い聞かせる。
普段着ないようなフリルのついたスカートにヒールの高い靴。
慣れない格好でおぼつかない足取りのままシャウトは家を出た。

待ち合わせ場所にはいつものように先についていたバーディが目を丸くしてシャウトを見ていた。
バーディをここまで驚かせる恰好をシャウトはめったにしない。
大抵バーディに見せる前に自分が嫌になるからだ。
「なんだその恰好。」
あきれたような口調でバーディは言う。
「デートなんだからいいじゃない。」
シャウトはそう言い返した。
バーディは何か言おうとしたが、何を言っても地雷を踏むと感じたのか、結局口は閉じられたままだった。
最初の数歩はおぼつかない割には順調だった。
特別よろめくこともなく、いつもよりも目線の高い景色を楽しめた。
とくにバーディの顔が近くなったのがシャウトにとってはうれしいことだった。
それは人が多い通りにさしかかるまでの話だが。
人通りが多くなると必然的に人にぶつかりやすくなる。
そして現在のシャウトの恰好はなれないものであるためうまく人をよけられない。
ヒールが高いことも災いになり、うまく体重移動ができずにいた。
なので、ふらつくことはもちろん、何度か足をひねりそうになった。
大概バーディがすぐに気付くおかげで、ひねるまでには至らなかった。
でも、その都度バーディは何か言いたげな視線をシャウトによこしていた。
もちろん、今何かを言ったところでなにも改善されることがないのはバーディも承知しているはずだ。
その口が開かれるのは、バーディが公園のベンチで休むことを提案した時になった。
さすがに何度も足をひねりそうになれば、足首はよくわからない疲労を訴えるようになる。
シャウトにとってはありがたい提案ではあったので、了承することになった。
ベンチに座るシャウトを残してバーディはドリンクを買いに行った。
戻ってきたバーディの手には二本の飲料があったことからシャウトは知った。
バーディはシャウトの真横に座り、二人の距離は立っていた時よりも近くなる。
肩と肩が触れるどころかぶつかってもおかしくない距離にいた。
「なんでそんななれない恰好するんだ。」
バーディが言った。
だが、シャウトには返す言葉がない。
周りにどうみられるか不安だった。陰口を言われやしないか不安だった。
バーディがほかの女に目移りしないか不安だった。むしろほかの女がバーディに近寄りやしないか不安だった。
ほかにも様々な不安などがきっとシャウトの中には渦巻いていた。
あまりにも絡み合っていて、シャウト自身ですら分からない。
口を真一文字に結び、ただうなだれるしかできないでいた。
「この間も言ったが、お前は十分俺にはもったいない。無理はするな。」
バーディから遠いほうの肩に後ろから手を乗せ、言った。
「でも……。」
いくらバーディがそう言ったところで不安は消えない。
「大体危なっかしくて見ていられないぜ。慣れないなら止めろ。」
目を鋭くさせてバーディはそういう。
怒っていなくても、その一歩手前だろう。
「それに俺はほかのやつらよりはお前のこと知っているつもりだ。いまさら見かけだけで選ぼうとも思わない。」
今度はじっと前を向いたままバーディが言葉を続けた。
「だからな、お前はそばでほほ笑んでいればそれで十分だ。ま、辛い時に笑えとは言えないが。」
再び顔を向けてバーディは言う。
今度は大分柔らかい表情をしていた。
そして、自然体の時のお前が好きだからなと小声でささやかれた。
いくら婚約関係とは言え、相変わらずバーディがこういうことを言うのは珍しい。
シャウトは驚いて顔を上げた。
バーディのほうを向いたが、バーディは明後日の方向を向いていた。
やはり照れているのだろう。
そんなバーディを、やはり好きだなっとシャウトは思った。
子どもっぽいところも、しっかりしているところも、すぐ挑発に乗るところも、もちろん、優しいところも。
外見の要素はないわけでもないが、それを含めてバーディがバーディだから好きなのだ。
きっとバーディも同じなのだろう。
「うん。じゃ、行こうか。」
シャウトが言った。
今日一日はヒールの高い靴だけれど、バーディがそばにいてくれるから大丈夫。
バーディが選んだのはシャウトであって他の誰でもないんだから、申し訳なく想うのはバーディに失礼でもある。
そう思えるようになると、自然とシャウトの背筋は伸び、顔に笑みが広がった。
バーディの片腕を引き寄せ、抱きしめる。
バーディは驚いた顔をするがそのままにさせた。

今ならきっと言える。
私がバーディの彼女だ、と。
並んで歩きながら、シャウトはそう思った――。
諫山実生さんの『Smile』がシャウトにしか見えません。というか、シャウトって普段の服装で十分かわいいと思います。
変に着飾るよりもずっとかわいい!って感じでwww
本当はこれは、マリッジブルーの前にしたかったんだけど、『おまえは十分俺にはもったいない』ってセリフをマリッジブルーで出しちゃってさ;;
あそこが初出チックな扱いになっちゃったので、必然的にこっちが後になっちゃいました;;
でもネタとしてはこっちのほうが先に存在していた(笑
ただなかなか書き起こせなかった;;
…が、『drop out』をかくためにはこっちをかかなきゃいけない!ってことで、今回は頑張って先こっちをかくことにしたとか←

戻りませう