薫子さん、一肌脱ぐ。

朝宮薫子という少女は一言でいえば執事マニアである。
その知識の豊富さは、彼女の手にかかればBクラス関連のもので知らないものはないと言われるほどだ。
またそう言う理由からか、特定の執事に熱をあげたり執事に近づく女子生徒に嫉妬したりすることもほとんどない。
そんな薫子が最近ささやかな楽しみにしているのは大切な友人である良とその執事の伯王との関係。
二人とも相手を大切に思いあっているのに、どうしてもあと一歩が踏み出されない。
その関係がほほえましくもあるのだが、意識し出しているのか、時々ぎくしゃくする二人を見るのは薫子の胸中も穏やかにならない。
「花園部長、花園部長!前回のお芝居が大成功に終わったお礼に今度は良ちゃんがお姫様のお芝居をやってみませんか!」
「そう言えば伯王さんも、氷村さんのお姫様姿を見たいとか言っていたらしいしねぇ……。でもお姫様のできない芝居にみんなのってくれるかなぁ」
良のために一肌脱ぐと決めた薫子としては、姫役ができないことに抵抗はない。
しかし、前回の芝居でも姫役をやりたいと言った人がたくさんいたようなメンバーだ。
彼女たちが納得してくれるのか、それは確かに疑問ではある。
「そうなんですよねぇ。良ちゃんのためにも、良ちゃんには是非このお姫様をやってもらいたいんですが」
そう言って薫子がとりだしたのは『眠れる森の美女』の本。
前回の芝居では部分的に話を踏襲していたが、今回はこれ一本で行くつもりだった。
「氷村さんのためって……朝宮さん何考えているの?」
「お節介かもしれませんが、一肌脱いでみようかと」
うふふと笑いながら、薫子は部長の問いに答えた。
「何か面白そうねぇ。よし、私も協力しよう」
部長が乗り気になったのを確認して、クッキング部を巻き込んだ芝居の準備が始まる――。

「良ちゃーん。またお芝居やるんだけれど、一緒にやらない?」
事前準備を終わらせた後、薫子はそう良に声をかけた。
この時も良は伯王や庵、隼斗と一緒にいた。
伯王は良の専属執事であり、庵と隼斗はもう十数年伯王に仕えている身分だ。
良がいるところに彼らがいるのはある意味当たり前の光景にもすでになっていた。
だからわざわざ狙わなくても、高確率でこのような場面で話を振ることができた。
薫子の誘いに了承してもしなくても、良が参加よう作戦は練ってある。
クッキング部のみんなには、以前の白薔薇会を含め日ごろのお礼と称して部長と一緒に説得している。
だがこの計画の全貌を知っているのは薫子一人だけだろう。
もしかしたら、こういう方面にさとい庵や一緒に気を利かせている隼斗は気付くかもしれない。
でも彼らなら、喜んで協力してくれるはずだ。
「えーと……」
良は言葉を濁して少し悩んだようだ。
前回の芝居の時、伯王が良の芝居参加で拗ねたとか拗ねていないとか。
良が逡巡した理由にそう言うことがあるのかもしれない、そう薫子は推測する。
「伯王さんも良ちゃんのお姫様姿が見たいっておっしゃっていたそうで。だから良ちゃんにお姫様役をお願いしようと思うんだけど」
「そっかぁ……。でも、似合わないと思うなぁ」
後は泣き落としならず、とにかく頼みとおすのみ。
友達思いの良はそうなると断らない。
「わかった。お姫様頑張るよ」
「わー。ありがとう良ちゃん!良ちゃんの衣装頑張らなきゃ!」
薫子は良の手を取って思いっきり喜ぶ。
「でも、王子様の役もまだ決まっていないのよねー」
そう言って薫子は頬に手を当てて考え込む。
「そうなの?私別にまた王子でもいいけど?」
「ううん、今度はキスシーンがあるから、王子様はちゃんと男子にやってもらいたくって。もちろん良ちゃんが嫌なら多少修正はできると思うんだけど……」
薫子は台本の該当シーンを良に見せる。
「伯王さんがやっていただければそれで解決するんですが……」
「でも伯王、演劇の類は苦手だって言ってやろうとしないよ?」
控え目に提案した薫子に、良はダメだよ、という。
そう言えば前も同じようなことがあった。
あのころは専属執事がつくかという賭けを良が受けた時だ。
「あまり気乗りはしないけれど、ほかの男子に聞いてみるしかなさそうねぇ」
これは最悪の事態として考えていたことだ。
最悪の事態であり、最後の切り札でもある。
「気乗りしないって……?」
「だって、“家さえよければ”彼女にしたいのになぁと言うような人たちよ?!良ちゃんの価値が家だけでなくなるなんて考え許せるわけないじゃない!」
薫子にとっては大切な友人なのだ。
そんな人間を相手にするくらいなら口には出さないが、自分が王子役をやりたいとすら思っている。
「か、薫子さん……」
プンプンする薫子に、良が少したじろいだような声を出す。
「だから劇の中とはいえ、恋人役を出来るならやりたいって人は多いと思うのよ……」
薫子はため息をつく。
「でもねー。だからって伯王がやるともおも――」
「やる」
良の言葉を遮って口を開いたのは伯王だ。
どこか不機嫌そうな表情をしているのは、演劇に出ることに対してなのだろうか、それとも良のキスシーンをほかの男にとられると考えて嫉妬したことだろうか。
「まあ」
薫子は喜びを顔面に浮かべる。
「良ちゃん、よかったね!伯王さんの王子様姿見たかったんでしょ!」
もちろん喜びを表すために取る手は、良の手だった。

伯王の王子様としての実力は前回の芝居でも見ている。
そのため、伯王がみんなと一緒に練習することを固辞したので無理強いはしなかった。
王子の登場は割と独立しているため、そこまで周りと合わせる必要がないことも幸いした。
だから伯王の王子姿はだれも本番まで見ていない。
そして、伯王が出ると言うだけで芝居を見に来る客層に占める女子の割合があがった。
「だ、大丈夫かなぁ……」
似合っている?変じゃない?舞台裏で良は絶えずそんな質問を投げかける。
場面は一番最初、王女の誕生をお祝いして魔女たちが贈り物をしているところだ。
「良ちゃん素敵よ」
魔女の恰好をした薫子が言う。
薫子自身は提案者ということもあって一番人気のなかった13番目の魔女、つまり呪いをかける魔女役をやることになっている。
「ありがと、薫子さん」
「それじゃ、私はもう行くわね」
台本は一応ある。
だが物語は台本通りに進むのか薫子にはわからない。
前回の芝居では観客が紛れ込むと言うアクシデントがあった。
今回は事前練習では王子が登場していない。
薫子自身としてはそのまま二人の中が深くなればそれはそれでいいと思っているので、台本通りに事が運ばなくても気にしない。
逆に気まずくなった場合は、伯王の存在を気付かされないよううまく相談に乗って本音を引き出すようなことをやろうかとも思う。
そんな思いを抱えながら、薫子はステージへ向かう。
二人の仲を信じているからこそ、後ろは振り向かない。
最初にも考えたが、これは余計なお世話なのかもしれない。
それでもこれが、一つのきっかけになれたらいいなと思う。
大切な友人の恋路をそっと薫子は応援したのだった。
伯良でキスシーンを妄想していたら、こんなのになりました。なんだこれ。
ちなみに薫子さんは、天然お嬢様だけれど、こうと決めたことに関してはとてつもなく策士だったらいいと思います。
劇が終わった後、

Aパターン
「お疲れ様、良ちゃん。どうだった?」
「なんかすごいドキドキしちゃった。なんていうか、胸がうるさいくらいなっている反面、どんどん落ち付いていくと言うか。なんか不思議な感じだった。演技じゃなかったらもっと嬉しかったんだけどなぁ」
ぽろりと本音がこぼれればいい。ちなみに恋心は無自覚。

Bパターン
「やっぱり伯王の王子姿はかっこいいね!私なんかがお姫様で釣り合いとれていたのかなぁ」
「お前は……。何言ってんだよ」
盛大にため息をつく伯王。
こんなんじゃ、俺がどんな気持ちでお前にキスをしたかわかっていないだろうなぁ、とどこかへこんでいるのかもしれない。

と言うにパターンを真っ先に妄想してみた。
一時保存でちょろっと載せた「Because of You」のほうはもうちょっと文章硬い感じなので(というかほかの二次創作と同じ感じなので)、こっちは思いっきりふざけてみました。
タイトルからして、もう、アレです。アニメのサブタイトルに使えそうな感じ!をコンセプトに今までにない感じでふざけて見た(笑)
基本のノリが拍手に載せたのと同じなので、執事様〜はこういうノリのほうが書きやすいのかもしれません。(ぁ

ここまで読んでいただきありがとうございました!

戻りませう