ふわぁぁぁ〜
朝になり晴香は目を覚ました。
あれ?洋服を着て寝ていた…?
自分の服装を確認して晴香は首をかしげた。
ざっと昨日のことを振り返ってみる。
――そうか、昨日は美樹に誘われて飲み会に出たんだっけ。
ようやくその事実に思い至る。
どれくらいお酒を飲んだのか、どんな話をしたのか、どうやって帰ったのか、それは全く記憶になかった。
ズキン。
頭痛がした。二日酔いだろう。
痛む頭を押さえながら携帯を見てみると、着信ランプが点灯していた。
誰だろう、そう思って携帯を手にして確認してみる。
メールが一通。美樹からだ。
――やっぱり彼氏じゃないの。
文面はたった一行。それしか書かれていない。
彼氏?晴香はやはり首をかしげた。
そして半覚醒した脳に、八雲が一緒にいたという記憶が呼び起こされる。
どこをどう解釈すれば、八雲が彼氏に見えるのだろうか?
晴香には理解できない。
メールの受信時刻を見てみると、深夜二時過ぎになっていた。
きっと今頃美樹はまだ眠っているだろうな、そう思いながら晴香は起き上がった。
…あれ?
見慣れた部屋に、何か違和感を覚える。
もう一度よく見まわしてみると、椅子の上に丸い背中が見える。
誰?
そう思った疑問の答えを得るべく、そろりそろりと晴香は背中に近づく。
横からのぞいて晴香は驚いた。
それは机に頭を預けて、気持ちよさそうに眠る八雲だった。
なぜ八雲君がここに??
その問いは晴香をパニックにさせる。
そんな晴香の視線に気づいたのか、八雲がうっすらと目を開けた。
「あ、お、おはよー。」
驚きを必死に隠そうと晴香が声をかける。
「起きたのか。」
相変わらず八雲の返答はそっけない。
「ごめんね、おこしちゃった?」
恐る恐る晴香は聞いてみる。
「いや。君が起きたなら僕は帰るよ。」
そういう八雲は、立ち上がり、本当にいまにも帰りそうだった。
「ま、待ってよ。と言うか、なんで八雲君がここにいるの?」
八雲を帰してはいけない、なぜかそう思い晴香は八雲を引き留める。
八雲は頭を掻きながらしばし晴香と見つめあった。
そしてため息をひとつついた。
「本当に君は何も覚えていないんだな。」
なぜ八雲はこんなにも不機嫌そうにしているのだろうか?
いつも以上に不機嫌な八雲に晴香はたじろぐ。
「覚えていないんだから仕方ないじゃない。まさか八雲君がここまで連れてきたの?」
状況から考えるとそういうことになるだろう。
「そのまさかだ。君がぐっすり眠っていたから帰るに帰れなくなった。」
「な、それって、私が悪いみたいじゃない。」
「違うのか?」
眉をあげて八雲は聞いてくる。
ほんっとうにいやらしい聞き方をしてくる。
「だいたい私は八雲君に頼んだ覚えはありません。」
「それは君が覚えていないだけだろ。それともほかのやつが良かったのか?」
「何で私のせいなの。八雲君が…。」
その先の言葉を、晴香は続けることができなかった。
八雲の赤い眼が怒りを孕んでいるのか、悲しみを孕んでいるのかはわからない。
ただ、静かに揺れていた。
「そんなに、僕が、いやか?」
声のトーンを落とした八雲は怖い。
一語一語確認するように、凄みをきかせるように、八雲は言う。
「…いや…八雲君じゃなきゃ、いや…。」
頭を振りながら、そう声を絞り出した。
頬を涙が伝ったのを皮切りに、次々と涙があふれる。
何で私は泣いているんだろう。
八雲の右手が伸びてきて、頭を八雲の胸に押し付けた。
そのまま右手は晴香の髪をもてあそぶ。
「晴香……。」
滅多に名前を呼ばない八雲が、晴香の耳元で囁く。
――僕だっていやだよ、君がほかの男に触られるのが。