世代交代 1.5
シャウトがジェッターズをやめてから数日後、バーディはとあるカフェで人を待っていた。
マイティがいなくなってからバーディの生活が狂いだしたときの産物の一つだ。
逆ナンパしてきた相手を断ることもなく派手に遊んだ時のだ。
結局愛はなかったので、キスすらしていない関係に向こうが嫌になって別れ、またナンパされを繰り返していた。
たまに熱狂的な女性だと、バーディのほうが恐ろしさを感じてバーディのほうから別れを告げたこともある。
やはり愛も何もなかったので、罪悪感もなければ、逆上した彼女たちが下手に手出しをしないよう布石を打ったりもしていた。
「やっぱめんどくせーな」
はあ、っとバーディはため息をついた。
女性が好みそうなこじゃれたカフェでは、バーディの容姿は目立ちすぎる。
周囲の視線を感じながらも、呼び出した張本人が約束の時間に来ないことに苛立ちも感じていた。
仕事を口実に逃げ出せないだろうか、そう思ったところでジェッターズバッジはうんともすんとも言わない。
だが、ここで救世主が現れる。
シャウトの義母、ミキからの電話だった。
シャウトの父親であるツイストと結婚してからタクシーに乗る機会は減ったが、時々乗るときは今でもこうして電話をしてくる。
一通り話をしてから、バーディは電話を切り、未だ来ない女性へメールを打つ。
メールはシンプルに、仕事が入ったから帰る、と。
「そういえばバーディちゃん、この間はシャウトちゃんを守ってくれてありがと」
少しタクシーが走りだしたところでミキがそういった。
「いえ、当然のことをしたまでです」
特別誇ることもないのでバーディはそういう。
シャウトは今、二十に届くか届かないかの歳だ。
ガングたちに言わせたら趣味が悪いとなるだろうが、世間的に見れば一番輝いている時期だろう。
時々見せる女らしさは、普段見慣れているはずのバーディですらドキッとさせる。
「シャウトちゃんに、バーディちゃんみたいなしっかり守ってくれる彼氏ができるといいんだけれど」
いつまでもバーディちゃんに頼るわけにもいかないわね、そうミキは続ける。
ミキはきっと、シャウトがバーディに告白したことを知らない。
そして、バーディは気晴らしで彼女という存在がコロコロ変わっているということも。
誰かを大切に思っていても、突然喪われると辛いだけなのだ。
それだったら、命の次くらいに大事な存在などないほうがいいのだ。
だから決して特別な人間は作っていない。
ただ彼女らの幻想ごっこに付き合っているだけ。
お互い飽きたら終了する、気楽な関係。
「ねえ、バーディちゃんは、シャウトちゃんをどう思っているの?」
考え事をしていたバーディに、ミキが聞く。
ミキはバーディとシャウトのことも見抜いているのかもしれない。
彼女は職業柄なのか、そういう方面で鋭かった。
「シャウト……」
そう呟いてバーディは黙ってしまう。
シャウトは大切な仲間だ。それ以上でも、それ以下でもない、と思う。
その言葉に嘘はない。しかし、胸の奥でくすぶる何かがあるのも事実だった。
認めてしまえば何かが変わってしまう、そんな危険性をはらんでいた何かだ。
「バーディちゃん、あたしの娘を泣かせた時は承知しないわよ」
ミキには珍しく、少し冷たい空気を伴った口調で言った。
義理の娘といっても、ミキにとっては大事な娘だということが伝わってくる。
もしかしたらミキは初めからすべて知っていたのかもしれない。
大切に思っていないなら、初めから振ってくれと言いたかったのかもしれない。
そして、もし大切に思っているなら思いが続く限りそばにいてほしいと言いたいのかもしれない。
そのあたりを確認することは少し卑怯なようで、それでいて、何かを認めることになりそうでできなかった。
ミキを彼女の目的地で下して、バーディは携帯を確認する。
先ほどメールを出した彼女から、仕事が終わるまで待っているという返事が来ていた。
やっぱり戻らないとだめか、深くため息をついてバーディがつぶやいた。
バーディはタクシーを走らせ、先ほどまでいたカフェへ向かう。
ミキに言われたことが頭から離れない。
シャウトのことをどう思っているのか。
シャウトに告白されている今、なんて答えるべきなのか。
その答えは彼女にあっても出なかった。
「ねえ、バーディさんはお仕事のほうが大事なの?」
待っていた彼女が不機嫌そうな表情で聞いてきた。
どっちも大事とか、お前のほうが大事とかそういう答えを求めているのかもしれない。
しかし、バーディにとって彼女はどうでもいい一人にすぎないのだ。
前提条件が間違っている。
「ああ」
だからバーディはそっけなくそう答える。
「まあ、そうだよね」
彼女は少しさびしそうに言った。
彼女と付き合うころにはすでに、バーディと付き合っても愛されることがないということはその辺の女性たちには知られていることだった。
シャウトは俺がこんなやつだと知っていてもまだ好きだというだろうか、バーディは思った。
シャウトに嫌われたら、そう考えると寂しさが胸をよぎる。
「ねえ、バーディさん、もしかして、好きな人いる?」
彼女が聞いた。少しバーディの顔を覗き込んでいる。
「な、なんでそう思うんだ?」
「女の勘。それに、バーディさんの顔がいつもと違うから」
戸惑うバーディに彼女はまっすぐな瞳を向ける。
「お前には関係ないだろ」
「ごまかさないで。関係あるし、すごく大事なことよ」
彼女の目は真剣で、バーディは答えを出さなくてはいけないことを知る。
「私は、バーディさんのことが好きだった。どんなにそっけなくても私は楽しかったし、うれしかった」
答えの出ないバーディを知っていてか、彼女は続ける。
いつの間にか表情は優しいものになっていて、どこかシャウトを彷彿させる。
「だから私は、バーディさんが好きな人を見つけるまでそばにいようと思ったの。好きだから、バーディさんに好きな人ができたら別れようって」
彼女の目尻にしずくがたまり始めた。
「バーディさんにはそんな女性いない?一緒にいると安心したり、その人の幸せを願いたくなるような人が」
涙をぬぐいながら彼女が聞く。
シャウトはどうだろうか、バーディは考えた。
考えても、よくわからない。
ただ彼女たちよりはずっと大切だとは思う。
幸せになってほしいとも思う。
彼女の理論だと、もしかしたら俺は、シャウトが好きなのかもしれない。
「ああ、すまなかったな」
ふっと口元が緩み、バーディがそう詫びた。
彼女は首を振り、
「いいの。今日まで一緒にいてくれて、ありがとう。私は行くね、ばったりその子に会って醜い感情が出ても嫌だし」
伝票を持って去っていった。
バーディは後姿を見送りながら心の中で感謝する。
彼女に出会えたこと、最後が彼女だったことに。
カフェの戸をあけるとき、ちらっと彼女がこちらを見た。
唇が、さようならの文字を紡ぐ。
外へ出て、携帯を操作し、こらえきれなくなったのかハンドタオルに顔をうずめる。
終わったのだ、ということをバーディは実感を伴って知る。
多数のうちの一人であったはずの彼女だったが、少しさびしさが胸をよぎった。
きっといい出会いをしたのだろう、そう思うことにする。
少しして彼女がいなくなってからバーディは覚悟を決めることにした。
シャウトに、返事を告げに行く、と。
ツイッター診断で、RTされたら書く〜系ので、鍵垢だとRTできない→ふぁぼられたら書く!にしたところ、ふぁぼられたので書きました。
世代交代と世代交代のその後(漫画)の間のお話です。
遊びだけの恋愛を繰り返した中で、最後だけはいい恋愛したらいいなぁって思ったので、振られる女の子はめっちゃいい子になりました。
じゃないと嫉妬心でシャウトが刺されかねない(汗)
バーディはバーディなりに真剣にシャウトに向き合っていたんだぞ!みたいなお話。
むしろ、ママのあたしの娘を泣かせたら〜のセリフを入れられたから満足←
実は本人のあずかり知らないところでシャウトさんって愛されているんですね(笑)
ではではここまで読んでいただきありがとうございました!
ふぁぼありがとうございました!←
戻りませう